ブログ

匿名だと口が悪くなるのはなぜ?ネットで攻撃的になる心理「オンライン脱抑制効果」

言葉がきつくなるのは、もともとの性格より条件が重なった結果に近いものです。同じ匿名性が暴言も本音も生み出し、減らすコツも「やさしくなる」と誓うより条件を一つ変えるほうが現実的です。

要点:匿名だと口が悪くなるのはなぜ?

  • 匿名の場所でふだんより言葉が強くなる現象を、心理学では「オンライン脱抑制効果」と呼びます。ジョン・スーラー(2004)が6つの要因に整理しました。
  • 脱抑制には、暴言や嘲笑として出る「有害な脱抑制」だけでなく、リアルでは言えなかった悩みを打ち明けられる「良性の脱抑制」もあります。
  • 実験では、匿名であること自体よりも、相手と目を合わせない状況や、その場にすでにある口調(集団規範)のほうが攻撃的な書き込みをよく予測していました。
  • もともと性格が悪いからというより、気分が落ちている日、荒れたコメントが先に並んでいるスレッドでは、誰でも言葉がきつくなりうるという結果があります。
  • 減らすには、意志の力よりも条件を変えるほうが現実的です。書き込む前に相手の顔を思い浮かべる短い間や、気分が悪い日はスレッドを閉じる、といったことですね。

社内チャットでは「承知しました」を一日に二十回くらい打っている人がいるとします。会議でありえない企画案が出ても顔には出さないし、グループLINEではスタンプ一つ選ぶのにも気をつかう。それなのに夜十一時、匿名掲示板やSNSの裏アカを開くと、指先が別人になります。ドラマの最終回スレに「脚本家どうかしてる」と書きこみ、キャスティング発表の投稿には半分皮肉のリプをつける。書いた瞬間はすっきりするのに、翌朝、通知に届いた返信を見ると、ちょっと気まずくなるんですよね。

これは二重人格だからではありません。匿名の場で言葉が変わる現象は20年以上研究されていて、実験結果を見ると、人よりも条件のほうで説明がつくことが多いんです。とはいえ「ネットなんてそんなもの」で片づけてしまうと、書いている本人にも残るものがあります。どんな条件が言葉のブレーキをゆるめるのかがわかれば、その条件を避けることもできるようになります。

画面の向こうではブレーキがかかりにくい(オンライン脱抑制効果)

心理学者のジョン・スーラーは2004年の論文で、人がオンラインでは対面よりもゆるんだ言葉や行動をとる現象を「オンライン脱抑制効果(online disinhibition effect)」と名づけました。彼があげた要因は6つです。

  1. 解離的匿名性:「これは本当の自分じゃない」という感覚。ハンドルネームの向こうの自分は、現実の自分とは切り離されている気がします。
  2. 不可視性:相手には自分の顔が見えず、自分にも相手の表情が見えません。顔をしかめる様子が見えないので、止まる合図もないわけです。
  3. 非同期性:返事はすぐには来ません。書きこんでアプリを閉じてしまえば、反応を受け止める必要もありません。
  4. 独我論的取り込み:相手の文章を自分の頭の中の声で読むうちに、相手が実在の人というより、自分の想像の中の人物のように感じられてきます。
  5. 解離的想像:オンラインはゲームのような別世界で、そこで言ったことは現実のルールとは関係ない、という感覚です。
  6. 権威の最小化:役職や年齢、社会的な立場が見えにくいので、目上の人に気をつかう場面が減ります。

スーラーが強調したのは、これらの要因が同じ人の中でも場面ごとに違う組み合わせで働く、という点でした。実名のFacebookでは慎重な人が、匿名掲示板ではがらりと変わる理由はここにあります。アカウント名やアイコン、返信がつくスピードといった小さな設計の違いが、ブレーキの効き具合を変えるんです。

ただし限界もはっきりしています。スーラーの論文は臨床での観察と理論をまとめた概念的な論文で、6つの要因がそれぞれどれくらい効いているかを実験で測ったわけではありません。その検証は、あとに続く研究にゆだねられました。

出てくるのは暴言だけではありません(良性の脱抑制と有害な脱抑制)

スーラーは脱抑制を二つに分けました。一つは有害な脱抑制で、暴言、嘲笑、個人情報の特定、集団での攻撃などです。もう一つは良性の脱抑制。リアルでは絶対に言えない話を、匿名だからこそ打ち明けられるという側面です。

匿名掲示板で伸びる投稿には、「親にも言えなかったことなんですが」で始まる相談がたくさんあります。パニック発作が起きた日のこと、給与交渉で押し負けたこと、長く付き合った人と別れたこと。知らない人が何十人も真剣なコメントを寄せてくれて、投稿者がそこから踏んばる力をもらうこともありますよね。アダム・ジョインソン(2001)の実験でも、コンピューター越しに会話した参加者は対面の条件より自分のことを多く話し、お互いの顔が見えない条件ではその傾向がさらに強くなりました。

大事なのは、同じ条件が両方を生むということです。匿名だから本音が言えるし、匿名だから暴言も吐きやすい。だから「匿名コミュニティは有害だ」も「匿名だからこそ正直になれる」も、どちらも半分しか当たっていません。

きつい言い方と正直さの区別がつきにくいこともあります。「事実を言っただけ」という一文のあとに続く内容が、事実よりも相手を下げる表現に力を入れているなら、それは正直さというより、ブレーキが外れた側に近いでしょう。

名前より、目が合うかどうかのほうが大きかった(匿名性・不可視性・視線)

では、6つの要因のうちどれがいちばん強いのでしょうか。ノアム・ラピドット=レフラーとアジ・バラク(2012)は、面識のない成人142人を二人一組にして、オンラインチャットでジレンマ問題について話し合い、合意案を出してもらいました。名前を明かすかどうか(匿名性)、ウェブカメラでお互いが見えるかどうか(不可視性)、そして相手と目を合わせるかどうか(視線の接触)を条件ごとに分けています。

結果は少し意外なものでした。三つの要因をまとめて分析したとき、全体としてはっきりした効果を示したのは、名前を隠す条件ではなく、目を合わせない条件だったんです。視線の接触がないと、参加者が自己申告した攻撃的な表現が増え、評価者が会話記録から数えた脅しめいた発言はほぼ2倍(平均0.33回→0.63回)になりました。名前を隠す条件も脅しの発言を少し増やしましたが、その影響はより小さいものでした。研究者たちは、これまで「匿名性の効果」とひとくくりにされてきたものの多くは、相手の目を見ないことから来ていると解釈しています。

この研究にも限界はあります。実験室で初対面の人どうしが短く話し合った状況なので、何年も同じハンドルネームで活動しているコミュニティの空気とは距離があります。それでも「相手が人間だという感覚」が抜けた瞬間に言葉がきつくなる、という方向性は、ほかの研究とも食い違いません。

その場の口調に引っぱられます(集団規範)

匿名の場を長く見てきた人なら知っていることが一つあります。同じ匿名でも、板ごとに温度が違うということです。煽りや皮肉が当たり前のところもあれば、みんなが丁寧な言葉づかいで慎重に書くところもあります。

レオニー・レスナーとニコル・クレーマー(2016)は、これを実験室で確かめました。参加者にブログ記事へコメントを書いてもらい、匿名かどうかと、すでについているコメントの口調(攻撃的か、そうでないか)を変えたんです。攻撃的な表現を増やしたのは先についていたコメントの口調で、匿名かどうか自体には直接の効果がありませんでした。ただ、匿名のときのほうが攻撃的な空気により引っぱられやすい傾向は見られました。この解釈の土台になっているのが、脱個人化効果の社会的アイデンティティ・モデル(SIDE)です。匿名になると個人が消えて暴走するのではなく、その場の集団規範により強く従うようになる、という考え方ですね。

スタンフォード大学とコーネル大学の研究チーム、ジャスティン・チェンら(2017)は、ここに「気分」という変数を加えました。オンライン実験で、難しいパズルを解かせて気分を落としたり、荒らしのコメントがすでについた議論を見せたりすると、参加者が攻撃的なコメントを書く確率がそれぞれ上がりました。二つの条件が重なると、その確率はおよそ2倍になっています。さらに大手ニュースサイトのコメント記録を分析したところ、人の気分が落ちやすい深夜や週のはじめに、通報されるコメントが増えていました。論文のタイトルはずばり「誰でも荒らしになりうる」です。

つまり言葉が荒くなるのは、「もともとそういう人だから」というより、気分が落ちている日に、すでに荒れたコメントで埋まったスレッドに入った、という条件の重なりで説明できる部分が大きいんです。個人差がないという意味ではありません。ただ、性格だけでは説明しきれない部分がかなり大きい、ということです。

すっきりしたようでも残るものがあります(匿名の場のコスト)

匿名掲示板で思いきりぶちまけると気持ちが晴れる、という人は多いです。でも、怒りを吐き出せば怒りが減るという考えは、研究ではあまり支持されていません。ブラッド・ブッシュマン(2002)の実験では、怒っている参加者にサンドバッグを叩きながら怒りの相手を思い浮かべてもらうと、何もせずに座っていたグループより、その後の攻撃性がかえって高くなりました。実験室での条件なので、そのままネットのコメントに当てはめるのは慎重であるべきですが、「吐き出せばすっきりする」という公式を信じてくり返すには根拠が弱い、とは言えそうです。

コストは書いている本人の側にもたまっていきます。よくあるのは、だいたいこんなパターンです。

  • リアルでは嫌なことを言えずに飲みこんで、その怒りを匿名の場で関係ない相手にぶつける。本当に言うべき相手には、あいかわらず何も言えないまま。
  • 反論の返信がつくと、何時間もそれにかかりきりになる。最初は非同期性が気楽だったのに、通知が来た瞬間にその気楽さは消えてしまいます。
  • 掲示板の口調に慣れるうちに、リアルの会話でも皮肉っぽい言い方がぽろっと出る。

一つ目に心当たりがあるなら、問題は掲示板よりも、リアルの場で「それは嫌です」と言えていないことのほうにあるのかもしれません。対面で詰まる言葉と、匿名であふれる言葉は、同じ根っこから出ていることが多いんです。角を立てずに断る言い方はバウンダリーの心理学にまとめてあります。

書きこむ前に試してみたいこと

「やさしく書こう」と意志で誓うより、ここまで見てきた条件を一つずつ変えていくほうが現実的です。

  • コメント欄に書く前に、相手が目の前に座っていると思って声に出して読んでみる。視線の実験を逆に使う方法です。向かい合っていても言えることかどうか、3秒でわかります。
  • 気分がどん底の日は、議論になっているスレッドを開かない。チェンらの結果どおりなら、そういう日の自分はふだんより荒らしに近いからです。
  • 荒れたコメントがすでに二十件ほどついている投稿には入らない。入るとしても、口調は合わせないと決めておく。レスナーとクレーマーの実験でいちばん強かったのが、この先行コメントの口調でした。
  • 投稿したら、通知を1時間ほどオフにする。反論にすぐ反応しなければ、言い争いの多くは自然に冷めていきます。
  • 匿名の場でなぜかよくイラッとくるテーマがあれば、メモしておく。特定の俳優、特定の世代、特定の職業のように、くり返し出てくる対象があるなら、それは掲示板よりも自分の側の話である可能性が高いです。

いちばん役に立つのは、最後の項目であることが多いです。何度もとげとげしくなるポイントは、たいていリアルで押しこめている感情とつながっているからです。落とし穴も一つあります。「もう匿名アプリはやめる」のように大きく誓うと、たいてい数日しか続きません。通知を切る、くらいの小さな一歩のほうが長続きします。

自分はどんなふうに持ちこたえている?

匿名の場は、ストレスへの対処のクセが、いちばん整えられていない形で出てくる場所でもあります。皮肉で乗り切る人もいれば、冗談でかわす人もいるし、完全に黙りこむ人もいます。自分にどんな守り方がなじんでいるのか気になったら、本当の防衛パターンを知るテストを試してみてください。結果は診断ではありません。居心地の悪い場面で自分がどちらに傾きやすいのかをふり返る材料くらいに使ってもらえたらと思います。

ネット上で嫌がらせを受けていたり、コメントのせいで眠れず、日常が揺らぐほどになっていたりするなら、一人で抱えこまないほうがいいです。ここに書いたことは診断ではないので、つらい気持ちが続くときは専門家への相談をおすすめします。今まさに苦しいときは、「いのちの電話」(0570-783-556)や「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)に電話することもできます。そのほかの相談窓口は、厚生労働省の「まもろうよ こころ」でも探せます。

匿名掲示板でつい出てしまった言葉が、そのまま自分の本性というわけではありません。同じアプリが、ある夜には本音を話せる唯一の場所になることもあるのですから。今夜コメント欄を開いたとき、送信ボタンの上で親指が一瞬止まるかどうか。それを感じてみるだけで十分です。

参考文献

  • Suler, J. (2004). The online disinhibition effect. CyberPsychology & Behavior, 7(3), 321–326. https://doi.org/10.1089/1094931041291295
  • Joinson, A. N. (2001). Self-disclosure in computer-mediated communication: The role of self-awareness and visual anonymity. European Journal of Social Psychology, 31(2), 177–192. https://doi.org/10.1002/ejsp.36
  • Lapidot-Lefler, N., & Barak, A. (2012). Effects of anonymity, invisibility, and lack of eye-contact on toxic online disinhibition. Computers in Human Behavior, 28(2), 434–443. https://doi.org/10.1016/j.chb.2011.10.014
  • Rösner, L., & Krämer, N. C. (2016). Verbal venting in the social web: Effects of anonymity and group norms on aggressive language use in online comments. Social Media + Society, 2(3). https://doi.org/10.1177/2056305116664220
  • Cheng, J., Bernstein, M., Danescu-Niculescu-Mizil, C., & Leskovec, J. (2017). Anyone can become a troll: Causes of trolling behavior in online discussions. Proceedings of CSCW 2017, 1217–1230. https://doi.org/10.1145/2998181.2998213
  • Bushman, B. J. (2002). Does venting anger feed or extinguish the flame? Catharsis, rumination, distraction, anger, and aggressive responding. Personality and Social Psychology Bulletin, 28(6), 724–731. https://doi.org/10.1177/0146167202289002
オンライン脱抑制効果匿名掲示板誹謗中傷 心理ネットの攻撃性防衛機制

この記事に合う心理テスト

あわせて読みたい記事