要点:クッション言葉を多用するのは気づかい?それとも衝突を避けているだけ?
- 遠回しに言うこと自体は悪くありません。相手の面子を守りながら言うべきことを伝えるのは、昔からある会話の技術です。
- 分かれ目は言い方ではなく理由です。相手のために選んだ表現なら気づかい、嫌われたくなくて言いたいことを消しているなら回避に近いと言えます。
- 拒絶に敏感な人は、あいまいな反応を「拒絶された」と受け取りやすいという研究があります(Downey & Feldman, 1996)。そのせいで「やわらかく言う」が少しずつ「何も言わない」にすり替わることもあるんです。
- 落とし穴は、クッション言葉を重ねすぎてお願いそのものが消えてしまうこと。聞き手は何を変えてほしいのかわからなくなります。
- 代わりの方法として、「私」を主語にして、状況・気持ち・お願いを一文ずつ伝えるやり方があります。ただし、これも万能ではありません。
グループLINEに「もしお時間あれば…なければ全然大丈夫です笑」と打っては消し、また打っては消した経験はありませんか。グループ課題でひとりだけずっと資料を上げてくれない人がいて、結局送ったのは「皆さんお忙しいですよね…!もし余裕があるときに見ていただけたら助かります!」くらいのメッセージだった、とか。送ったあとは気持ちが楽になるのに、なぜか何も変わらないんですよね。
逆に、誰かにストレートに言われると「もうちょっとやわらかく言ってくれてもいいのに」と感じることもあると思います。クッション言葉が当たり前で、空気を読むことが大事にされる会話の中では、それがあまりに自然なので、自分が気をつかっているのか、ただぶつかりたくないだけなのか、わからなくなりがちです。就活、バイト、恋愛と、お願いしたり断ったりする場面が多い時期ならなおさらですよね。両者を分けるのは言い方ではなく言葉を選ぶ理由なので、いくつかの目安を知っておけば自分で見分けられるようになります。
やわらかく言うのは、もともと技術です(ポライトネス理論)
まずは、よくある誤解から解いておきましょう。遠回しに言うのは、気が小さいから身についた癖ではありません。言語学者のブラウンとレヴィンソン(Brown & Levinson, 1987)は、人は会話の中でお互いの「フェイス(面子)」を守るためにさまざまな方略を使っていると考えました。お願いや指摘のように相手の面子を傷つけかねない言葉ほど、謝罪やためらい、間接的な表現といった緩衝材をつける、というわけです。
「これ、間違ってます」より「私の見間違いかもしれないんですが、ここの数字が少し違うような気がして」のほうがやわらかく聞こえるのは、このためです。中身は同じ。間違っているという情報はちゃんと伝わっています。こうした遠回しさは、関係を守りながら言うべきことを言う、なかなか洗練されたやり方なんです。
ですから「クッション言葉は使うな」というアドバイスは半分しか当たっていません。問題はクッションそのものではなく、クッションの下に中身が残っているかどうかです。
対立への向き合い方は、だいたい5つ(トーマス・キルマンモデル)
組織心理学でよく使われる枠組みがあります。トーマスとキルマン(Thomas & Kilmann, 1974)は、対立が起きたときの反応を2つの軸で整理しました。ひとつは自分の立場をどれだけ押し通すか、もうひとつは相手の立場をどれだけ大事にするかです。この2軸を組み合わせると、5つのスタイルが出てきます。
- 競争:自分の立場を強く、相手の立場は控えめに
- 受容:相手に合わせて、自分の立場は引っこめる
- 回避:どちらも手放して、その場を避ける
- 妥協:お互いに少しずつ譲る
- 協調:両方を大事にするため、最後まで一緒に解決を探る
注目したいのは、「やわらかく言う」がどのマスにも入りうるという点です。協調する人もやわらかく話すし、回避する人もやわらかく話します。言い方だけでは見分けがつかないんですね。
たとえばルームメイトがずっと洗い物を後回しにしている場面を考えてみましょう。「最近忙しそうだね。洗い物の当番、決め直さない?」はやわらかいけれど、お願いがちゃんと生きています。これは協調寄りです。一方、「あ、いいよいいよ、私やっとくね笑」を3か月続けているなら、受容か回避のほう。どちらも言い方はやさしいのに、行き着く先は違います。
このモデルは、5つのうちどれかがいつも正しいとは考えていません。小さなことなら流したほうがいいときもあるし、急ぎの件なら押し切るべきときもあります。ただ、同じスタイルばかり使っているなら、それが自分で選んだものなのか、ただの癖なのかは一度考えてみる価値があります。
嫌われたくなくて言葉を消してしまうとき(拒絶感受性)
では、気づかいと回避を分けるものは何でしょうか。ひとつの手がかりは、言葉を選んでいるその瞬間、頭の中に誰がいるかです。相手が傷つきにくい表現を探しているなら、意識は相手に向いています。反対に「これを言ったら嫌われるかな」が先に浮かぶなら、意識は自分に向いています。
心理学者のダウニーとフェルドマン(Downey & Feldman, 1996)は、こうした傾向を「拒絶感受性」という概念で研究しました。拒絶を不安とともに予期し、すぐに察知し、強く反応してしまう傾向のことです。彼らの実験では、拒絶感受性が高い人ほど、拒絶かどうかはっきりしない場面でも「拒絶された」と強く感じていました。付き合い始めたばかりの恋愛では、相手の何気ない振る舞いに「わざと傷つけようとしている」という意図を読み取ることも多かったそうです。
これが話し方とどうつながるかというと、拒絶のサインを大きく受け取る人ほど、話す前の計算が長くなるんです。返信が遅いと「言い方がきつかったかな」と気になり、次はクッションをもう一枚足す。そうしているうちに、お願いそのものを抜いてしまう日が来ます。やわらかさが増えているのではなく、言いたいことが減っているんですね。
限界にも触れておきます。この研究は主にアメリカの大学生を対象にしたもので、拒絶感受性は診断名ではなく連続的な傾向です。誰でもある程度は持っていますし、高いからといって問題のある人だという意味でもありません。
クッションを重ねると、お願いが消えていく
クッション言葉が問題になるのは、たいていこんな形のときです。
「もしお忙しかったら本当に大丈夫なんですけど、私の考えすぎかもしれないんですが、お時間あるときに一度見ていただけたらいいかな、なんて思ったりもしていて…笑」
この文の中でお願いは「見てください」のひとつだけ。なのに前後に「大丈夫」「考えすぎかも」「いいかな、なんて」がくっついているので、受け取る側には「やらなくてもいいよ」という許可のように読めてしまいます。だから相手は本当にやらない。送った側はモヤモヤする。そのモヤモヤもまた言えないので、たまっていきます。
同じ内容を、クッションは残してお願いだけはっきりさせると、こうなります。
「お忙しいところすみません!私が書いた部分、一度見ていただけますか?金曜の打ち合わせまでだとありがたいです。」
長さは半分なのに、受け取る側がやることはむしろはっきりしました。「すみません」というクッションはそのまま残っています。消えたのは「大丈夫なんですけど」「考えすぎかも」「なんて」のような、自分でお願いを取り消してしまう言葉です。クッション言葉を見直すときは、この2種類に分けて考えると楽ですよ。相手を気づかう言葉は残して、自分のお願いを消す言葉だけを外すんです。
こうしてたまったものが、ある日まとめて噴き出すことも少なくありません。いつもはどこまでも穏やかな人が、急に冷たく関係を切ってしまう。そんな場面を一度は見たことがあるかもしれません。言いたいことを長く飲みこんでいると、そのうち言うタイミングの問題ではなく、言う力そのものがなくなってしまうこともあります。
もうひとつ、言いたいことを飲みこみ続けるパターンは気分にも影響します。ジャックとディル(Jack & Dill, 1992)は、関係を守るために自分の考えや気持ちを抑える傾向を「自己沈黙(self-silencing)」と呼び、それを測る尺度を作りました。3つの女性グループのいずれでも、この得点が高いほど抑うつ得点も高くなっていました。相関なので、どちらが先かはわかりません。それでも「言わないほうが楽」が、いつもタダではないというサインとして受け取ることはできます。
気づかいか回避か、自分で確かめるための質問
次の質問に「はい」が多いなら、今のやわらかい話し方は気づかいより回避寄りかもしれません。正解を決めるためではなく、自分のパターンを知るためのものです。
- 送ったメッセージを読み返しても、自分が何をしてほしいのか相手に伝わりそうにない。
- 同じお願いを3回以上遠回しに伝えたのに、何も変わっていない。
- 話す前に「相手が嫌な気持ちにならないか」より「自分が嫌われないか」が先に浮かぶ。
- 相手の返信が遅いと、まず自分の言い方を読み返してしまう。
- お願いしたあとに「あ、でもやらなくても大丈夫です」と付け足すことが多い。
- 傷ついたことを言わずに流して、ずいぶん経ってからまとめて爆発したり、連絡を絶ったりしたことがある。
反対に、相手の事情をわかったうえで言葉をあえて選び、それでもお願いははっきり伝えたなら、それは気づかいです。言い方がやわらかいことと、中身がぼやけていることは別の話なんです。
付け加えると、同じ人でも相手によってやり方が変わるのはよくあることです。友だちには言いたいことを言えるのに、教授やバイト先の店長の前でだけ言葉がぼやけるなら、性格の問題というより、力の差がある関係でよく起きる慎重さに近いものです。どんな関係で特に言葉を消してしまうのか書き出してみると、どこで練習すればいいかも見えてきます。
やわらかく、でもはっきり伝える文の型(アイメッセージ)
心理学者のトマス・ゴードン(Gordon, 1970)は、親子の対話を扱う中で「アイメッセージ(わたしメッセージ)」を提案しました。「なんでいつも〜するの」のように相手を主語にする代わりに、状況と自分の気持ち、その理由を、自分を主語にして伝える方法です。
実際に効果はあるのでしょうか。ロジャーズら(Rogers, Howieson, & Neame, 2018)の研究では、参加者が対立場面の切り出し方をいくつか読み、相手がどれくらい身構えそうかを評価しました。「私」を主語にし、相手の立場も認める文がいちばん敵対的でないと評価されています。ただし、これは架空のシナリオに対する評価でした。実際のカップルの口論を分析した研究(Korobov, 2020)では、「私は〜と感じる」で始めた言葉が、かえって「それは事実じゃないでしょ」という反論で返される場面が多く見られました。流れがやわらいだのは、自分の気持ちだけでなく相手の気持ちまでくみ取った言葉のときだったそうです。型を覚えれば対立が消える、というわけではないんですね。
それでも、型そのものは練習用に十分使えます。順番はこうです。
- 状況:判断を入れず、起きたことだけ
- 自分の気持ち、または影響:「私は〜だった」
- お願い:具体的にひとつだけ
すぐに使えるよう、いくつか例を挙げておきます。
- グループ課題:「資料がまだ上がっていないので、発表の準備が進められずにいます。木曜の夜までに上げてもらえますか?」
- ルームメイト:「洗い物が2日たまっていて、キッチンを使うとき少し困ったんだ。当番の曜日、決め直そう。」
- 恋人:「約束の直前にキャンセルされると、その日の予定が全部崩れて悲しくなる。次からは前の日までに言ってもらえる?」
- 友だち:「その話を聞いたとき、ちょっとさみしかった。私の話も一度だけ聞いてもらえる?」
よくある失敗は、お願いをいくつもまとめてしまうことです。「連絡もこまめにしてほしいし、約束も守ってほしいし、言い方も…」と一度に出すと、相手は何から聞けばいいかより、どこから守りに入るかを先に考えてしまいます。一回の話し合いでは、お願いをひとつに絞りましょう。
クッション言葉をやめろという話ではありません。「お忙しいところすみません」を前につけてもいいんです。ただ、お願いの一文だけはクッションなしで残しておいてください。そして「やらなくても大丈夫です」は、本当にやらなくていいときだけ使うものです。
断る側に回るときは、バウンダリーの心理学でまとめた断り方のフレーズも参考にしてみてください。
自分の「守り方」が気になったら
言葉をやわらかく整える癖は、広く見れば、気まずい場面をやり過ごす方法のひとつです。笑ってごまかす人、先に謝ってしまう人、話題そのものを変える人など、それぞれに慣れたやり方があります。
本当の防衛パターンを知るテストでは、対立や気まずい場面で自分がどんなふうに自分を守りがちなのかを見ていきます。結果は診断ではありません。次に似たような場面が来たとき「あ、またこれやってる」と気づくための材料くらいに使ってもらえたらと思います。
ここに書いた内容は診断ではありません。拒絶への不安が日常や人間関係を大きく揺さぶるほどなら、ひとりで言葉を整えるより、専門家のカウンセリングを受けてみるほうがいいでしょう。気持ちがとてもつらく、死にたいと考えてしまうときは、「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)や「いのちの電話」(0570-783-556)に連絡してください。
やわらかく話すのは悪いことではありません。むしろ、相手のことを考えられる人の習慣であることが多いんです。ただ、そのやわらかい言葉の中に自分のお願いが残っているかどうかは、ときどき確かめてみる必要があります。
今日送ろうとして消したメッセージがあるなら、クッションはそのままに、お願いの一行だけをはっきり書き直して、もう一度送ってみてください。送信ボタンの前で少し手が震えても大丈夫です。
参考文献
- Brown, P., & Levinson, S. C. (1987). Politeness: Some Universals in Language Usage. Cambridge University Press.
- Thomas, K. W., & Kilmann, R. H. (1974). Thomas-Kilmann Conflict Mode Instrument. Xicom.
- Downey, G., & Feldman, S. I. (1996). Implications of rejection sensitivity for intimate relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 70(6), 1327–1343. https://doi.org/10.1037/0022-3514.70.6.1327
- Jack, D. C., & Dill, D. (1992). The Silencing the Self Scale: Schemas of intimacy associated with depression in women. Psychology of Women Quarterly, 16(1), 97–106. https://doi.org/10.1111/j.1471-6402.1992.tb00242.x
- Gordon, T. (1970). Parent Effectiveness Training. Peter H. Wyden.
- Rogers, S. L., Howieson, J., & Neame, C. (2018). I understand you feel that way, but I feel this way: The benefits of I-language and communicating perspective during conflict. PeerJ, 6, e4831. https://doi.org/10.7717/peerj.4831
- Korobov, N. (2020). Failure of I-statements for mitigating interpersonal conflict in arguments between young adult couples. Studies in Media and Communication, 8(2), 49–60. http://redfame.com/journal/index.php/smc/article/view/4982
