吊り橋効果:胸がドキドキしたら、恋に落ちたということ?
吊り橋効果の研究が実際に示したことと再現性の議論、ホラー映画や遊園地デートでのドキドキの読み方。
要約:吊り橋効果、胸がドキドキしたら本当に恋なの?
吊り橋効果とは、緊張する場面で生じたドキドキを、目の前の相手への好意と取り違えることがある、という考え方です。1974年のDuttonとAronによる吊り橋の実験で広く知られるようになりました。
もとの研究が測ったのは「恋」ではありません。短い物語に含まれる性的な表現と、面接者に電話をかけた人の割合でした。参加者もカナダの18〜35歳の男性の通行人に限られていました。
数年後には、4回の追試がすべて再現に失敗したという報告(Kenrickら、1979)があります。多くの実験をまとめたメタ分析(Fosterら、1998)では、覚醒が好意に与える影響はあるものの、大きくはないという結果でした。
ホラー映画や絶叫マシンのあとで隣の人を近く感じることはあります。ただ、ジェットコースターの研究では、恋人と一緒に乗った人たちにはこの差が見られませんでした。
ドキドキは結論ではなく手がかりです。静かで落ち着いた場所でもう一度会ったときに会話が楽しいかどうかのほうが、ずっと信頼できる目安になります。
誰かと会った帰り道、胸の鼓動がなかなか落ち着かないとき、真っ先に浮かぶ答えはたいていひとつです。「わたし、この人のことが好きなのかも」。
その読み方が間違いだというわけではありません。ただ、心臓は高い場所でも、面接の直前でも、午後に飲んだ二杯のコーヒーでも速くなります。体が先に反応し、名前はあとからつきます。吊り橋効果は、この「名前をつける」ところでずれが起きる瞬間を説明しようとする考え方です。
吊り橋効果とは?高さ70メートルの橋の上の実験
1974年、カナダのバンクーバー近くにあるキャピラノ渓谷で、心理学者のDonald DuttonとArthur Aronが実験を行いました。片方は、岩と急流の上、およそ70メートル(230フィート)の高さにかかった、幅が狭くてよく揺れる吊り橋。もう片方は、小川の上3メートルほどの高さにある、しっかりした木の橋でした。
女性の連れがいない18〜35歳の男性が橋を渡っているところに、女性の面接者が近づいて短いアンケートを頼みます。一枚の絵を見て、短い物語をつくってもらう課題でした。アンケートが終わると、面接者は「結果が気になったら連絡してください」と言って電話番号を書いて渡しました。
結果はこうです。吊り橋の上で回答した人たちの物語には、性的な内容がより多く含まれていました。電話番号を受け取った人のうち実際に電話をかけた割合も、吊り橋側がおよそ半数、低い橋の側は12%前後でした。面接者が男性の場合は、こうしたはっきりした差は見られませんでした。
研究者たちの解釈は、「怖さから生じた覚醒を、目の前の女性に惹かれたものと読み違えた可能性がある」というものでした。心理学ではこれを「覚醒の誤帰属(misattribution of arousal)」と呼び、日本では「吊り橋効果」という名前で広く知られています。ちなみに韓国でも、日本から入った言葉として「吊り橋効果」を直訳した呼び名が使われ、「揺れる橋の効果」という言い方も一般的です。
この考え方の根っこには、1962年のSchachterとSingerによる情動の二要因理論があります。感情は、体の覚醒と、その覚醒につける解釈の二つが合わさってできる、という主張です。同じドキドキでも、隣に誰がいて、どんな状況かによって、ときめきにもなれば恐怖にもなる、ということです。
研究が言っていないこと、そして再現性の議論
吊り橋効果は「スリルのあるデートをすれば相手に好きになってもらえる」という形でよく紹介されますが、もとの論文はそこまで言っていません。恋に落ちたかどうか、関係が長続きしたかどうかは、研究の対象ではありませんでした。参加者も条件ごとに数十人ほどの、ひとつの地域の男性の通行人です。
別の解釈も成り立ちます。わざわざ揺れる吊り橋を渡る人は、そもそも冒険好きで、知らない人に電話をかけることにも積極的なのかもしれません。どちらの橋を渡るかを無作為に割り振ったわけではないので、この可能性を消すのは難しいのです。
再現の問題もあります。1979年、Kenrick、Cialdini、Linderは似た条件で4回実験を行い、4回ともにもとの結果は再現されなかったと報告しました。怖い状況がはっきりしているとき、参加者は自分のドキドキを相手のせいではなく、状況のせいだと正しく受け止めていたというのです。
逆に、肯定的な結果もあります。1981年、White、Fishbein、Rutsteinは、その場で足踏みをして心拍を上げた男性たちが、魅力的な女性をより好意的に、あまり魅力的でない女性をより否定的に評価したと報告しました。覚醒は好意を無条件に高めるというより、もともとあった反応をふくらませる、と考えるほうが近そうです。
こうした実験を集めて分析した1998年のFosterらのメタ分析は、覚醒が第一印象の好意に影響すると結論づけました。効果量はd=0.27で、恋愛の行方を変えるほど大きな数字ではありません。また、覚醒の原因があいまいなほど効果が大きくなっていました。
ホラー映画で手をつないだら、運命なの?
たとえば、二回目のデートでホラー映画を観たとします。いちばん怖い場面で手をつなぎ、エンドロールが流れるまで離しませんでした。
実際、1989年にCohen、Waugh、Placeは映画館でカップルを観察しています。緊張感の強いサスペンス映画を観て出てきたカップルは、穏やかな映画を観て出てきたカップルよりも、互いに触れたり話しかけたりする行動が増えていたと報告しました。恐怖や緊張が隣の人をより近く感じさせる、というのはある程度根拠のある話です。
とはいえ、「あの夜は特別だった」ということと「この関係は特別になる」という結論は同じではありません。強い場面は記憶を鮮やかにしますが、その記憶がそのまま相性というわけではないからです。確かめるのは次の日からです。
次の日に連絡を取るときも、会話は自然に続くか?
映画を口実にして、相手に負担をかけていなかったか?
手をつないだり距離が縮まったりしたのは、二人とも望んだときだけだったか?
ホラー映画デートそのものが悪い選択というわけではありません。ただ、相手がホラーを苦手としていたり刺激に弱かったりするなら、それはロマンチックなコースではなく、二時間我慢する場になってしまいます。観る前に好みを聞き、観ている間は反応に気を配り、スキンシップはお互いにはっきり同意しているときだけにするのが自然です。
初デートに遊園地はあり?
初デートの場所として「絶対に気まずくならない所」を探していると、遊園地が思い浮かびますよね。吊り橋効果を根拠に、デート成功の法則のように紹介されることもあります。
このテーマを直接扱った研究がひとつあります。2003年、MestonとFrohlichはアメリカの遊園地で、ジェットコースターに乗る直前の人と、降りたばかりの人、あわせて300人に声をかけました。ごく普通の外見の異性の写真を見せて、魅力やデートしたい気持ちの程度をたずねたのです。
恋人ではない人と一緒に乗った場合、降りたばかりの人は写真の人物をより魅力的だと評価しました。ところが、恋人と一緒に乗った人たちでは、乗る前と降りた後の評価に意味のある差はありませんでした。隣にはっきりした相手がいれば、覚醒が見当違いのところへ流れていかない、と解釈できます。スリルが自動的に好意を生んでくれるとは言いにくい、ということです。
遊園地がぴったり合うカップルも、もちろんいます。でも、たとえば一人はフリーフォールの列で楽しそうにしているのに、もう一人は高所恐怖症で並んでいる間ずっと表情がこわばっているとしたら、その日のドキドキはときめきというより「耐えている」に近いでしょう。
初デートの場所は、次の四つで判断するほうが安心です。
相手はその活動を本当に楽しめるか
途中で休みながら話す時間があるか
予算や移動時間が、どちらか一方だけの負担になっていないか
合わなかったときに、予定を変える余地があるか
いい初デートの場所とは、心臓をいちばん強く高鳴らせる所ではありません。お互いに「これは好き」「これはちょっと苦手」と気軽に言える所です。
それでも、新しい体験を一緒にするのは役に立つ
では、スリルのあるデートには意味がないのでしょうか。そうとも限りません。2000年、Aronらは長く付き合っているカップルに7分間の課題をしてもらいました。一方のグループは、手首と足首を結んだ状態でクッションを運ぶという、新しくて少しワクワクする課題。もう一方のグループは平凡な課題です。新しい課題を一緒にしたカップルのほうが、課題の後に関係への満足度を高く報告しました。
ここでのポイントは、取り違えではなく「共有」です。吊り橋効果が「誰のせいでドキドキしているのかわからなくなる瞬間」だとすれば、こちらは「一緒にドキドキした記憶」に近いものです。
そのドキドキを信じていいか、自分で確かめる質問
ドキドキを無視する必要はありません。かといって、それひとつに結論を任せる必要もありません。次の質問をひとつずつ思い浮かべてみてください。
その人のことを思い出すだけでドキドキするか、それとも刺激的な場面のときだけか?
カフェや散歩のような静かな場でも、会話が楽しいか?
相手の話し方や態度、価値観をもっと知りたいと思うか?
会って帰ってきた次の日、疲れよりも「また会いたい」気持ちのほうが大きいか?
まず、自分が関係に求めるものを知っておく
ドキドキよりも長く残るのは、「この人の隣で、自分がどんな気持ちでいられるか」です。大切にされていると感じるか、安心できるか、わかってもらえていると感じるか。この基準が自分の中であいまいだと、強烈なひとつの場面に判断をあずけてしまいがちです。
PrismTestの情緒的欲求テストは、関係の中でどんなサインに安心し、それが満たされないときにどう反応するかを、気軽に振り返れるテストです。結果はあなたを決めつける診断ではありません。次のデートの前に一度やっておくと、その日のドキドキを読むときの基準がひとつ増えます。
最初の気持ちは、すばやくやってきます。関係を判断する材料は、それよりもゆっくり集まります。吊り橋の上で高鳴っていた心臓は、橋を渡りきれば落ち着きます。渡ったあとも、その人のことがまだ気になるなら、そこからが本当の物語です。
これらの研究は、大学生や特定の地域の通行人などサンプルが限られており、多くは第一印象や短い実験の中での反応を測ったものです。実際の恋愛の長い流れにまで当てはめるのは難しい点に注意してください。
参考文献
Dutton, D. G., & Aron, A. P. (1974). Some evidence for heightened sexual attraction under conditions of high anxiety. Journal of Personality and Social Psychology, 30(4), 510–517.
Kenrick, D. T., Cialdini, R. B., & Linder, D. E. (1979). Misattribution under fear-producing circumstances: Four failures to replicate. Personality and Social Psychology Bulletin, 5(3), 329–334.
ときめきと恋愛のペース
全6話中2話- 01 ときめきと不安、どう見分ければいい?
- 02 吊り橋効果:胸がドキドキしたら、恋に落ちたということ?
- 03 ホラー映画で手をつないだら、運命?
- 04 初デート、遊園地ってあり?
- 05 恋愛初期の自己開示――無理のないペースを見つける
- 06 結婚前の不安と向き合う:結婚準備中に気持ちが揺れるとき