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SNSでバズったものをつい買ってしまう心理:社会的証明とFOMO(取り残される不安)

「みんな買ってる」が情報のように聞こえるのは社会的証明のせいで、人気には思っている以上に運が混ざっています。カートに入れて24時間待つだけでも、判断はずっと落ち着きます。

要点:SNSでバズったものを見ると、なぜ自分も買わなきゃと思ってしまうの?

  • 「みんな買ってる」という言葉は、頭の中で「これは間違いない選択だ」という情報に置き換わります。社会心理学ではこれを「社会的証明」と呼びます。
  • Salganik・Dodds・Watts(2006)の音楽市場の実験では、ほかの人のダウンロード数を見せると人気曲への偏りが大きくなり、どの曲がヒットするかはかえって予測しにくくなりました。人気があるからといって質がいいとは限らない、ということです。
  • 自分と似ていそうな人の口コミほど心が動きます。ただ、それを示したホテルのタオル研究は、ドイツでの再現実験で結果が分かれたので、効果を大きく見積もるのは禁物です。
  • 「取り残されたくない」という不安は、有能感・自律性・つながりといった基本的な欲求が満たされていない人ほど強く出ていました。欲しいのはモノではなく、仲間に入っている感覚なのかもしれません。
  • いちばん現実的なのは、カートに入れて24時間待つこと。「売り切れたらどうしよう」がいちばんよくある落とし穴ですが、待つあいだに冷めたなら、それくらいの気持ちだったということです。

たとえば寝る前にXを眺めていて、「ドラストのセールでこれ買ってない人いる?」という投稿が流れてきたとします。リプライは200件以上。「私も買った」「在庫がなくて3店舗回った」と、みんな口をそろえています。使いかけのリップクリームが引き出しにちゃんと残っているのに、指はもう通販アプリを開いている。注文完了の通知が来てからやっと、「あれ、なんでこれ買ったんだっけ?」と我に返るんですよね。

セールやポップアップストアのオープンが月に何度も重なる今は、こんな夜がめずらしくありません。これは意志が弱いから起きることなのか、人の頭がもともとそう動くようにできているのか、一度考えてみる価値はあります。先に結論を言うと、後者の理由のほうがずっと大きいんです。

「みんな買ってる」が情報のように聞こえる理由(社会的証明)

説得の研究で知られるロバート・チャルディーニは、『影響力の武器』の中で、人はどうすればいいか確信が持てないとき、ほかの人の行動を見て正解を推測すると説明しています。これが社会的証明(social proof)です。知らない街で行列のできている店に入るのと同じ判断ですね。たいていの場合は、かなり役に立つ考え方です。

古い実験がこれをよく表しています。Milgram・Bickman・Berkowitz(1969)は、ニューヨークの人通りの多い道に実験の協力者を立たせ、向かいのビルの6階の窓を60秒間見上げてもらいました。見上げているのが1人のときに立ち止まった通行人は4%だけでしたが、15人になると40%が立ち止まりました。足は止めなくても顔を上げて上を見た人は、42%から86%に増えています。窓には何もなかったのに、です。

もちろん1960年代の路上実験なので、今のネットでの買い物にそのまま当てはめることはできません。それでも方向ははっきりしています。見上げている人が多いほど、「何かあるんだろう」と判断する人も増えるんです。バズった投稿についたリプライ200件は、まさにこの15人の役割を果たしています。

実は、この判断のしかたがうまくいく場面もあります。日焼け止めを初めて買うとき、成分表を見てもさっぱりわからないなら、口コミが多くて評価が安定しているものから試すのはかなり合理的です。情報がないとき、ほかの人の選択はよい出発点になるからです。新商品が次々に出るコスメやグッズは、もともと情報が足りない市場なので、なおさらそうだと言えます。

問題は、この判断のしかたが「自分に必要か」という問いを飛ばしてしまうことです。ほかの人が「いい」と言ったことは品質についての情報にはなっても、自分の引き出しの事情についての情報ではありませんから。

人気には、思っている以上に運が混ざっている(ミュージックラボ実験)

では、よく売れているものは少なくともいいモノだと考えていいのでしょうか。この問いに答えてくれたのが、Salganik・Dodds・Watts(2006)の実験です。研究チームはウェブサイトをつくり、無名バンドの曲を48曲載せて、1万4千人あまりが試聴・ダウンロードできるようにしました。参加者の一部はダウンロード数が見えない条件で、残りはダウンロード数が見える8つの独立した「世界」のどれかで曲を選びました。

結果は2つありました。ひとつは、ダウンロード数が見える世界では、売れる曲と売れない曲の差がずっと大きく開いたこと。もうひとつは、同じ曲でも世界ごとに順位が大きく違ったことです。序盤にたまたま誰が何回ダウンロードしたかによって、ある世界では1位、別の世界では真ん中より下、ということが起きました。とてもいい曲が最下位まで落ちたり、かなり微妙な曲が1位になったりすることはまれでしたが、その間では何が起きてもおかしくなかったんです。

限界もあります。参加者は無料で曲をもらえるネットユーザーで、お金を払う判断とは重みが違います。それでも、バズった投稿に当てはめるとかなりしっくりきます。「どこも売り切れ」のアイテムは本当によくて広まったのかもしれませんが、初日に上がった口コミのいくつかがたまたま多くのいいねを集めて、雪だるま式に広がっただけかもしれません。そこへおすすめのアルゴリズムが人気のものをさらに多くの人に見せれば、偏りはもっと大きくなります。フィードが似たような動画を次々に出してきて手が止まらなくなる仕組みについては、ショート動画とドーパミンデトックスの記事でも取り上げました。

自分と似ていそうな人が買ったと聞くと、もっと揺れる

広告のモデルより、SNSの口コミのほうが信用できる気がするのはなぜでしょう。書いた人が「自分みたいな人」に見えるからです。同じ推しのファン、同じくらいの年齢、同じ肌の悩みを持つ人が「これ本当にいい」と言うと、広告のキャッチコピーよりずっと身近に聞こえますよね。

Goldstein・Cialdini・Griskevicius(2008)は、ホテルの浴室にタオルの再利用をすすめるカードを何種類か掛けてみました。環境保護を呼びかける一般的な文より、「ほとんどの宿泊客がタオルを再利用しています」という文のほうが効果があり、「この部屋に泊まった宿泊客のほとんどが」と範囲をしぼると、再利用率はさらに上がりました。自分と立場が近い人の行動ほど、まねしやすくなるという解釈です。

ただ、この結果を信じすぎるのは考えものです。Bohner・Schlüter(2014)がドイツのホテル2か所で同じ実験をやり直したところ、「みんな再利用しています」という文は一般的な環境の文より特に効果的ではなく、「この部屋の宿泊客」の効果も研究によってばらつきがありました。方向としてはありそうでも、どれくらい効くかは当てにできない、と見ておくのがよさそうです。

そして、SNSの口コミにはもうひとつ落とし穴があります。自分と似ていそうな口コミが、実はPR案件だったり、肌質や使う場面がまったく違っていたりすることもあるんです。「似ている人」という感覚は、アカウント名や口調だけでも生まれてしまいます。

だから口コミを読むときは、星の数より条件を先に見るのがおすすめです。「脂性肌、夏に使用、3週間目」のように書いた人の状況がわかる口コミは、「神コスメ!」が10件並ぶよりずっと役に立ちます。条件の書かれた口コミが見当たらないなら、その人気はまだ「なんとなくの空気」に近いということです。

取り残されたくない不安はどこから来るのか(FOMO)

「数量限定」「本日まで」「すでに1,000人が購入」といった言葉がつくと、判断はさらに急かされます。この気持ちを表す言葉がFOMO(fear of missing out)、日本語で言えば「取り残される不安」です。ほかの人がいい体験をしているあいだ、自分だけが置いていかれているかもしれないという不安ですね。

Przybylski・Murayama・DeHaan・Gladwell(2013)は、これを測る尺度をつくり、幅広い年代を調べました。有能感・自律性・つながりといった基本的な欲求が満たされていないと答えた人ほどFOMOのスコアが高く、FOMOが高い人ほどSNSをひんぱんにのぞき、気分や生活の満足度は低めでした。一度きりのアンケートで見た相関なので、どちらが先なのかはわからないという限界があります。

それでも、ひとつ考えてみる価値はあります。グループLINEで友だちがそろって同じポーチの写真を上げていて、自分だけ持っていないとき。本当に欲しいのはそのポーチなのか、「自分もその輪に入っている感覚」なのか。ポップアップストアのオープン日の朝に「整理券300番台でした」という投稿がずらっと並ぶと、行かなかった自分だけ何かを逃したような気分になるのも同じことです。そのポップアップで何を買いたかったのかは、いまいち思い出せないのに。

就活中のように、何もできていない気がして人と会う機会も減る時期は、「輪に入っていたい」気持ちが大きくなりやすいものです。認められたい、つながりたいのに、ほかのもので埋まらない感覚については、褒められても空しい理由でもう少しくわしく書いています。

購入ボタンを押す前に試したいこと(カート24時間ルール)

ここからは研究で検証された処方というより、上の仕組みを逆に利用する生活の工夫です。バズった投稿が判断を急がせるなら、判断に時間をくっつけてあげればいいんです。

1. カートに入れて24時間待つ

削除はせず、入れておくだけにしてください。「買わない」より「明日買う」のほうがずっと守りやすいからです。いちばんよく出る反論は「そのあいだに売り切れたら?」ですが、1日で冷めるくらいなら、売り切れても大して惜しくありません。逆に、何か月も待っていたCDやライブグッズのように、もう十分に考えたものはこのルールから外してかまいません。

2. 買う前に5つだけチェックする

  • バズった投稿を見る前から、これが必要だと思っていた?
  • 似たようなものをもう持っていない?
  • 口コミを書いた人と自分の条件(肌質、使う場所、予算)は本当に近い?
  • PR表記や、何度もくり返される同じ言い回しはない?
  • 誰も買っていなかったとしても、自分はこれを買った?

最後の質問で迷ったら、惹かれていたのはモノより「みんな」のほうだった可能性が高いです。

3. 自分に言う一文を決めておく

「私はこれを__のときに使って、今持っている__の代わりにする」。空欄が埋まらなければ、カートにもう1日置いておきます。

4. グループLINEでの聞き方を変える

「私も買ったほうがいい?」と聞くと、たいてい「買いなよ!」と返ってきます。代わりに「使ったことある人、デメリットをひとつだけ教えて」と聞いてみてください。ほめ言葉ではなく不便な点が集まりはじめると、判断がぐっと落ち着きます。

5. 流行りもの用の予算は月単位でひとつだけ決める

金額はそれぞれの事情に合わせて決めればOKです。大事なのは、その範囲内なら人気のアイテムを買っても罪悪感を持たないと決めておくこと。ルールがいくつもあると守りにくいので、予算はこれひとつにしておきましょう。

こうした工夫が効かないときもあります。ここに書いたことは診断ではありませんが、買っては後悔することがずっとくり返されていたり、カードの支払いで生活が揺らいでいたり、借金を別の借金で返しているような状況なら、ひとりで我慢するより助けを借りるほうがいいです。借金の問題は「法テラス」(0570-078374)に電話すれば、使える制度や相談窓口を案内してもらえます(収入などの条件を満たせば、無料の法律相談も受けられます)。お金のことで気持ちまでかなりつらくなっているときは、「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)や「いのちの電話」(0570-783-556)に連絡してみてください。

惹かれているのはモノか、つながりか気になったら

人気のアイテムに特に弱くなる時期があるなら、最近の人間関係で何が足りないと感じているのか、一度のぞいてみるのもいいと思います。感情的ニーズ診断では、関係の中で愛されている、安心できる、わかってもらえていると感じるサインが、人によってどう違うのかがわかります。結果はあなたを決めつけるものではありません。最近の自分が何を求めているのかを考えるヒントくらいに使ってもらえれば十分です。

バズった投稿は、明日もまた流れてくる

「みんな買ってる」という言葉に揺れるのは、おかしなことではありません。わからないときにほかの人を見て判断するのは、人がずっと使ってきた方法で、たいていは役に立ちます。ただ、人気には思っている以上に運が混ざっていて、自分と似ていそうな口コミも、実際にはかなり違う状況かもしれません。

だから今夜またバズった投稿を見かけたら、カートに入れてスマホを伏せておきましょう。明日の朝になってもあのリップクリームが頭に浮かぶなら、そのときは買ってしまって大丈夫です。

参考文献

  • Cialdini, R. B. (2001). Influence: Science and Practice (4th ed.). Allyn & Bacon.(邦訳:『影響力の武器』誠信書房)
  • Milgram, S., Bickman, L., & Berkowitz, L. (1969). Note on the drawing power of crowds of different size. Journal of Personality and Social Psychology, 13(2), 79–82. https://doi.org/10.1037/h0028070
  • Salganik, M. J., Dodds, P. S., & Watts, D. J. (2006). Experimental study of inequality and unpredictability in an artificial cultural market. Science, 311(5762), 854–856. https://doi.org/10.1126/science.1121066
  • Goldstein, N. J., Cialdini, R. B., & Griskevicius, V. (2008). A room with a viewpoint: Using social norms to motivate environmental conservation in hotels. Journal of Consumer Research, 35(3), 472–482. https://doi.org/10.1086/586910
  • Bohner, G., & Schlüter, L. E. (2014). A room with a viewpoint revisited: Descriptive norms and hotel guests' towel reuse behavior. PLoS ONE, 9(8), e104086. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0104086
  • Przybylski, A. K., Murayama, K., DeHaan, C. R., & Gladwell, V. (2013). Motivational, emotional, and behavioral correlates of fear of missing out. Computers in Human Behavior, 29(4), 1841–1848. https://doi.org/10.1016/j.chb.2013.02.014
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